
やっと、自宅前の商店が休んでいた理由が自分で無いという事を理解した本人は、小人の大群に言いがかりをつけられることに恐怖を感じており「自宅に戻りたくない」という声があった為に、「一緒に安心して過ごせるところに行きませんか?」と提案を行った。
すっかり、自宅で待ち構えている小人たちに恐怖している本人は
「ぜひ、お願いします。ですが、安心して過ごせるところはどこでしょうか?」と尋ねてきた。
「それなら、外部からの人間が入ってこれないように専属のスタッフがいる、
ご主人が昨日入所された施設にしばらく身を隠すというのはどうでしょうか?」
「施設でもどこでもいいので、小人たちが来なければ施設で構いません」
という返答だったので、施設に事情を説明し、緊急で自費でのショートステイの調整を行った。
だが、そこで終わるわけには行かない。
きっと、この小人が見えるという症状は、レビー小体型認知症の症状にぴったりと当てはまるから、今のうちに適切な治療を開始しなければ、いくら過ごす場所を変えたからといっても、施設にも小人が出現するようになることは火を見るよりも明らかだ。
「それでは、施設の確認は取れて、今日から宿泊することは可能ですが、施設に行く前に一ヶ所一緒に行って欲しい場所があります」
「どこに行く気でしょうか?」
「実は、あなたが見えている「小人が見えて、小人に責め立てられる」という病気があるんです」
「いえいえ、私には現実に小人が見えてきて、毎日四六時中責め立てられています。病気ではありません」
「それは事実かもしれませんが、実は私には小人が一匹も見えていません。これは私にとっての事実なのですが」
「ええ!あの小人たちがケアマネジャーさんには見えていなかったのですか!!」
「ええ、そうなんです。ですので、今の状況が死にたいと言うほど追い詰められて、自宅にも戻れないというほど小人に追い詰められていますよね。
そして、その小人がもしも「病気」であるのなら、治療を行えば回復することになります。
元々、ご自身で死のうかと思っていた今日ですので、死ぬ前に一度、私と受診をして、病気かもしれないという可能性を試してみることに価値は全く無いとは言えないと思いませんか?」
すると、彼女は少し悩んだ挙句、
「もし、小人たちが私の病気による幻視だとしたら。
もし、見えなくなるとしたら、それはありがたいと思いますが・・・」
本人は小人が現実にいると信じきっている為に、病院にいくことに不承不承の部分があるが、受診に同意をしてくれた。
「緊急で受診が必要な方なのでお願いします!」
必死の私の説得で、30分後に認知症サポート医が勤務している精神科で受診を受けることが出来た。
問診と長谷川式、CT検査を行った結果、彼女はレビー小体型認知症の診断が下りた。
医師は、本人にレビー小体型認知症の症状と、今見えている小人は治療を開始したら見えなくなる旨の説明を優しくわかりやすく行ってくれた。
本人も、自分がおびえている小人がレビー小体型認知症という、物忘れ以外の新たな認知症によるものということを知り、不安を感じながらも、治療を行えば回復していくという医師の言葉に安堵した様子だった。
それから、医師の勧めで精神科に任意入院を行い、3ヶ月間集中的に入院治療を行った。
(施設の自費ショートステイはもちろん断った)
無事に3ヵ月後に本人は退院してきて、元の元気な姿になって帰ってきた。
今は毎朝、アリセプトとプラズマローゲンを飲んで幻視は消えたとの事だった。
彼女は「この薬を飲み続けないと、また小人が見えるようになるんでしょうか?」と私に質問してきた。
私は「見える可能性はゼロではありません。今の医学で効果があると言われている内服は続けたほうが良いと思います」と答えた。
彼女はそれから5年たった後も薬をきちんと飲み続け、小人は見えていないと言われています。
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